古屋圭司通信

胡主席の訪日に想う

カテゴリー:外交, 議員活動

2008年05月09日

 5月6日から10日まで、中国の胡錦涛国家主席が日本を訪問した。
 思い起こせば、10年前に江沢民主席が来日した際には、江氏の進める「抗日路線」を基本に、日本に対して歴史認識などで厳しい態度に徹した。天皇陛下主催の晩餐会においても、慇懃無礼な言動は、日本国民に極めて不愉快な思いをさせた。しかし今回は一転して、「友好」の演出が至るところでなされた。メディア報道もおしなべて好意的だ。
 また、首脳会談や共同声明の内容をみても、「戦後60年平和主義に徹して、世界に貢献した」旨の言及があったこと、あるいは地球温暖化問題で我が国の提案が評価されたこと、歴史問題についても「歴史を直視し、未来に向かう」程度の文言で収まったことなど、評価される面もある。しかしその背景には、中国は北京オリンピックを控え、チベット問題等で世界的な非難を受ける中、どうしても成功したいという思いがあることをしっかりと認識しておく必要がある。
 チベット問題について、福田総理からダライラマ側と対話を進めてほしいとの要請は行なったものの、人権弾圧や信教の自由への迫害、また1950年の弾圧以来17万人を超える僧侶を虐殺したという事実をみるとき、内政問題ということで片付けられる問題ではない。チベットだけでなく新疆ウイグル地区の人権侵害についても、世界から大きな批判の目にさらされているが、これについての言及はなかった。中国側が、ダライラマ側との更なる対話を行い、自由と民主主義、基本的人権、法の支配を基本価値観とする多くの諸国が納得できる対応を進めるために、厳しくその動向を見つめていかなくてはならない。
 オリンピック憲章には、「人間の尊厳を保つことに重きを置く平和な社会の確立」が明記されており、北京オリンピック開催の条件として、この憲章の遵守を約束していることからも、なおさらのことである。安倍前総理が歴代総理大臣との朝食会で、あえてこの問題に触れたことは勇気ある発言であり評価したい。
 ガス田の問題についても、我が国にとって当然ともいえるべき結論を得られなかったし、また尖閣諸島をはじめとする領土問題でも、実質的な進展はなかったことをみると、千載一遇のチャンスを逃し、胡主席に点数を与えてあげた訪日という印象は否定できない。
 餃子問題については、福田総理から「うやむやにすることは許されない」との発言があったことは評価するが、そもそもこの事件が発覚した時点で、毅然たる態度をとっていれば全く別の展開になっていたと推測される。
 そして、今回のいわゆる「微笑み外交」に隠された部分、即ち中国が覇権主義を目指しているのではないかという疑念は、全く晴らされていないのである。即ち、国防費が20年連続で二桁増加して、本年は日本の防衛費を越えて6.6兆円にも達していること(米国の調査では1400億ドルといわれている)、かつて装備はほとんどロシアに頼っていたが、現在ではイージス艦、原潜、F15に匹敵する装備を自前で調達可能なこと、台湾に向けて1000発のミサイルを配備している現実、米国大陸に届くミサイルの増加、宇宙への軍事がらみの進出など、東アジアの軍事バランスを根本から変え、アジア太平洋を越える戦略的機能を向上させているのではないかと。首脳会談では一切の言及はなかったし、共同声明でも、「お互いに(!?)安全保障分野の透明性を高める」という趣旨が言及されたにすぎない。
 戦略的互恵とは、戦略的パートナーシップとは異なる次元の外交ワードあることを、改めて認識した上で、中国との外交を戦略的に進めていくことが不可欠だ。

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